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おでんとおはぎ 第03話

 洋子はダイニングテーブルにつき、十年ほど前に新しくしたというキッチンで料理をしている久子の背中を見ていた。
 母の背中は少し小さくなったようだ。あまり太るのも困るが、痩せ細るのはもっと心配だった。
 その不安を口にすると、久子は「そう? 体重は少し増えたんだけどね」と言った。
 洋子は親の変化を言い当てられない自分を情けなく思った。親不孝だとも。
 胸にひろがった苦い思いをごまかすように、久子の入れてくれたお茶に口をつけた。
 自然とため息が出る。
「あー、ほっとする」
 洋子は湯のみを脇に置き、テーブルに突っ伏した。ごつんとおでこが天板にぶつかる音が響いた。
「これ、行儀の悪い。テーブルに突っ伏すんじゃありません。そんなに疲れるんだったら、飛行機にすれば良かったのに」
「またそれー」
「だって名古屋からじゃ大変でしょ」
 久子は手を止めずに言った。
「そうでもないよ。乗ったらすぐに寝るし。飛行機みたいに待ったり移動したりがないから、新幹線のほうがゆっくりできるの」
 洋子は額をテーブルにつけたまましゃべり続ける。声が少しこもってしまう。
「どーせビールでも一杯ひっかけてたんでしょ」
「・・・」
「いやだ、いやだ、親父くさくて」
 洋子はむくっと起き上がり、隣の椅子に置いてある白いビニール袋を取り上げた。
「なに、これ?」
 中を覗き込む。中には透明ビニールに入った大福もちがあった。
 五個はあるだろうか。 
「おっ、やりー、土田屋の大福ー」
「だめよ、もうごはんなんだから」
 久子が洋子を振り返る。
「えーっ、いいじゃん」
 洋子が口をとがらせた。
「いいじゃないか、大福一個ぐらい」
 周造が若干足をひきずりながら、ゆっくりとダイニングに入ってきた。
「ねえ」
 洋子が笑って周造を見た。周造も小さく笑い返す。
「ねえじゃありませんよ。子供じゃあるまいし」
 洋子は席を立ち、周造を支えた。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
 周造はゆっくりと椅子に腰をおろした。それを確認して、洋子も再び椅子に座りなおす。
「あれから、どう? 体のほう?」
「ああ、なんともない」
「良かった」
 周造は半年前に倒れた。脳梗塞だった。大事には至らなかったが、足に少し麻痺が残ってしまった。
 本人は大したことないと言うが、実際に目にするとやはり痛々しかった。

 


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